ボニー&クライドの存在を知ったのは映画「俺たちに明日はない」がキッカケだった。SEX PISTOLSに同名アルバム(※1)があったので興味を持ったのだと思う、僕の場合はそうやって興味が広がっていくことがある。この映画のお陰でボニー&クライドの存在の他に、主題歌として使用されている「Foggy Mountain Breakdown(※2)」という曲でブルーグラスという素晴らしい音楽の存在も知ったんだっけ。
映画の主役であるボニー&クライドこと、ボニー・エリザベス・パーカー(Bonnie Elizabeth Parker)とクライド・チェストナット・バロー(Clyde Chestnut Barrow)の2人組は30年代のアメリカに実在した強盗カップルで、当時のアメリカは禁酒法と世界恐慌の下にあったためか、犯罪を繰り返す彼等を凶悪な犯罪者であるにも拘らず、新聞も含めて「反逆のヒーロー」として英雄視する者も多かった。
テキサス州ローウェナ出身のボニーは両親と兄妹の5人家族だったが、1914年に父親が死去したため、祖母の家があるダラス近郊のセメントシティーで育った。当時からボニーは鉛筆を盗んだクラスメイトを呼び出して叩きのめすといった面があったが、学校の成績は優秀で感想文で賞状を受賞するといった面も持ち合わせていた。セメントシティーという街が治安があまり良くなかったということを考えると少女時代のボニーは街にいる普通の女の子だったのかもしれない。16歳で高校のクラスメイトだったレイ・ソーントンと結婚し、2年後の18歳の頃にカフェでウエイトレスとして働き始めたが、その翌年にレイが銀行強盗の容疑で刑務所に入れられてしまうなどその結婚生活は順風満帆といったものではなかった(法的にはボニーとレイとの婚姻は生涯継続されている)。ウエイトレスとしては明るく活発に働き、妻としてはレイが刑務所に入れられた後も籍はそのままでいるなど、後の凶悪な犯罪者としてのボニーの姿はこの頃にはあまり見えてこない。
テキサス州ダラス近郊の街でクライドは貧しい農家の8人兄弟の6番目の子として生まれた。クライドは、子供の頃から動物虐待を繰り返すなど近所の住民の間では粗暴なことで有名だった。両親が忙しくあまり教育に対して熱心ではなかった上に、学校へもあまり馴染めなかったようで姉と一緒によく学校を休んで遊んでおり、17歳の頃には兄も所属していたギャングに入っていたとも言われている。1926年には自動車窃盗で逮捕されたり、その後もダラス近辺で強盗を繰り返していたが、そんなクライドのことを家族は非難することは無く、むしろ擁護する態度をとっていたという。彼にとっての犯罪は生きるための手段だったのかもしれない。
そんな2人は1932年に運命的な出会いを果たし、強盗稼業を始めたーーと言う説があるが、1930年に友人の家で最初に出会ったとされている。
しかし2人が出会った直後にクライドは逮捕され、2年間刑務所に収監されることになった。そして保釈された2年後にクライドは更生することもなく、事件を起こしては逃走を繰り返しながら仲間を求めて以前出会ったボニー(この頃の彼女は別の強盗事件で逮捕されたが証拠不十分で釈放になっていた)に会いにダラスに行き2人は再会した。
再会した2人は強盗と殺人を続け、犯罪集団「バロウ・ギャング」のリーダーとして犯罪を重ねていく。
この時の「バロウ・ギャング」のメンバーは何度か入れ替わっているが後に一味となるクライドの兄のバックとその妻のブランシェも居た。
ボニーとクライドたちの手口は荒々しく、流血が絶えなかったことでも有名であった。強盗の基本手口は、ボニーが逃走用の車で待機し、クライドが店に入って金を奪うというもので予め計画しておいた逃走経路で州境を越えるというものであった。これは当時、アメリカの警察が犯罪者を追跡出来る範囲は州内に限られており、州を越えると追跡が出来ないことを利用した方法である。
一味(ボニー、クライド、バック、ブランシェ)が強奪を繰り返しながら南西部を駆け抜けていく犯行の姿はいつしか常に新聞の一面を飾るようになり、禁酒法と世界恐慌の下で鬱憤の溜まった都市部に住む人々にとっては、「反逆のヒーロー」として脚光を浴びていくようになる。残虐な行為を繰り返してきたボニーとクライドだったが、彼等を支持した者も多く、逃亡中に匿った者も起訴されただけで23人に上ったという。
1933年7月、警察との度重なる銃撃戦の結果、バックは射殺されてブランシェは負傷して逮捕。この時、ボニーとクライドは辛うじて逃げ延びるものの1934年5月、待ち伏せされた2人は四方を警官隊に囲まれ、ついに射殺されたのである。
彼らについては過去に同名の映画の他にもう1作(邦題「ボニーとクライド」)映画が製作されており、近年では2人の所持した拳銃がオークションに出品され2丁合わせて4,000万円近くの金額で落札された。このことからも現代でも「破滅に向かっていく」2人の生き方に共感や美学を感じる人は多いことがわかる。しかし彼らは13人もの罪のない人々を殺した殺人者であることや強盗を繰り返した凶悪な犯罪者であることを我々は忘れてはいけない。
※1 金儲け優先のD.グッドマン商法の中では最上な部類の『スパンクス』デモ音源。オーバー・プロデュースだった『勝手にしやがれ』にない真実が密封されているのでパンクスなら要チェック。ただ本作にシドは参加してないからクレジット&写真は詐欺。(参考:「CDジャーナル」データベース)
※2 1950年、アール・スクラッグスのペンによる名インストゥルメンタル・チューン
参考元
・ボニーとクライド(wikipedia)
・『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)
・週刊マーダー・ケースブック74(ディアゴスティーニ)
・『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)